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セルフライナーノーツ: Blog2
  • 執筆者の写真吉田拓矢

Last summer time blues

僕は都内の湾岸道路沿いの付近を時々散歩する。

繁華街でもなければ住宅地でも無い。

知り合いがあるわけでも、

行きつけの店があるわけでも無い。

目指すのはレインボーブリッジのループ橋。

山手線を品川駅で降りてひたすら東へと歩く。湾岸道路が横たわり、その向こうに東京湾が広がっている。

コンビニや古びた工場とか倉庫が並ぶ街並みを歩いていくと、レインボーブリッジのループ橋まで辿り着く。

曇りだったらベストだ。

歩くのが面倒にはなるが小雨でもいい。

コンクリートの無機質な建物の色合いと、空がちょうどよく交わる。

当時大田区に住んでいて、バイクに乗っていたので、この辺はよく走っていたから土地勘もある。

何年経っても変わらない風景だ。

夜中に何か考えたい時とか、

心を落ち着けたいときに、

ちょくちょく来ていた。

缶コーヒーとタバコがあれば、

夜明けにぼーっとループ橋を眺めることもあった。

(もちろん今は喉のためにタバコは吸っていないが)

きっと自分の人生史上、

若さゆえに一番混沌と矛盾を抱えた時期なんじゃないかなと思っている。

「愛」がなんなのかも、深く深く考えた頃だ。

Last summer time blues は、

特にこの街をイメージした曲というわけではないけれど、僕はこの湾岸道路沿いの鈍い灰色の空に、戻れないあの頃の気持ちを残したままでいる。

ただ、補足しておくと、

今でもたまに散歩するのは感傷に浸りにゆくためではない(笑)。

ファーストシングルの「continue 」のジャケット写真もここで撮ったし、

路上ライブを年間150本以上やって路上で集めたお客さんでいっぱいになったライブハウス(クラブ?)があった浜松町も近い。

もともと好きな場所であり、

なにかと思い入れが深い場所なのだ。

あの頃の気持ちがそこに残っているからこそ、そこに行けば初心に帰れる。

この歌は夏に置き去られた男女の恋を描いた曲ではあるが、

ともあれ、

このLast summer time bluesを歌うと、

あの風景が僕の頭の中に流れてくる。

歪んだギターのイントロで始まり、

ギターコードDからDM7に2拍だけ変わるのだが、その「2拍分のDM7」の音の感じが胸の奥にあるノスタルジーを撫でるようで、あの鈍い灰色の空を思い出させるのだ。



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